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外耳(外耳炎、耳垢栓塞、異物)

耳の病気と検査

外耳:耳の入り口から鼓膜まで。顔の皮膚の続きです。

中耳:鼓膜の内側にあって鼻の奥(鼻咽腔=上咽頭)と耳管という管でつながっています。喉の粘膜の続きです。

内耳:音を感じる蝸牛(かたつむりに形が似ているのでそう呼ばれます)と平衡感覚を司る三半規管で構成されます。脳の神経の続きです。

 

外耳は耳の穴から見ることができますし、中耳の様子も鼓膜を透かしてある程度分かりますが、その詳細な観察には内視鏡(鼓膜鏡)や顕微鏡が必須です。

中耳の詳しい様子や機能を知るためには、聴力検査ティンパノメトリーといった検査が必要になります。

内耳は外から見えませんから、その診断には聴力検査赤外線眼振検査が必須です。

様々な外耳炎

耳は、脳の神経の続きである内耳、のどの粘膜の続きである中耳、顔の皮膚の続きである外耳に分けられます。耳はこの3カ所で全く違う仕組みと働きがあり、かかる病気も違います。ここでは顔の皮膚の続きである外耳の炎症性疾患について書きます。

外耳道湿疹

外耳道の皮膚は、奥まっている分、湿疹を起こしやすい部位です。治療は、皮膚の他の部位と同じで、ステロイドの軟膏など局所の治療と、抗ヒスタミン薬などの内服とがあります。引っ掻いて悪化させると、黄色っぽいさらさらの耳漏が出ますので、耳漏を心配して受診される方も多いです。

細菌性外耳道炎・外耳道癤

不潔な指や耳かきで触って、細菌感染を起こしてなることが多いです。湿疹が基にあって、そこに感染が加わることも多いです。使い捨てでない固い耳かきは、外耳道の皮膚に傷をつけることもあり、また菌がついていてそれを皮膚に植えてしまうことも多いので、使わない方がいいです。外耳道には、ほとんどの抗生物質が効かない緑膿菌という菌がつくことも決して珍しくないので、耳に痛みや痒みがあるときは、油断しないでください。 外耳道の皮膚の細菌感染が悪化して、膿が貯まっておできになった状態を外耳道癤と言います。こうなると、膿を出してしまわないと、抗菌薬だけでは、なかなか治らないことがあります

体に生えるカビ《真菌性外耳道炎》

真菌というのはカビのことですが、体について病気を起こすカビもあります。カンジダ、アスペルギルスが、その代表です。外耳道はもともと、真菌がつきやすい部位のひとつですが、とくに、抗菌薬やステロイドを使っているときは、つきやすいです。外耳炎の治療で抗菌薬の点耳を行うこともありますが、必要最小限にとどめるべきです。長期使うと、細菌はいなくなりますが、そこに真菌が増えることがしばしばあります。

顔面麻痺を起こす外耳炎《帯状疱疹(ハント症候群)》

外耳炎の症状で受診される患者さんの中に、外耳道の皮膚に水疱が見られる場合があります。ウィルス性の炎症のことが多いですが、とくに問題になるのは、帯状疱疹です。神経につくウィルスですので、痛みも特別強いし、内耳の神経までつくと難聴やめまいを起こしたり、耳の奥には顔面神経がありますので、顔が曲がったりすることがあります。このような内耳や顔面神経の症状を伴うものを、ハント症候群と呼びます。

骨を溶かして広がる《外耳道真珠腫》

腫という病名ですが、腫瘍ではありません。皮膚の角化物が異常に多くたまり、骨を壊しながら進行する点は、真珠腫性中耳炎と似ていますが、原因は不明です。典型的なものは、鼓膜のすぐ手前の外耳道底部の骨が陥没しており、そこにしつこく堅い耳垢のようなものがたくさん付着しています。これを放置するとだんだん進行する可能性があるので、耳鼻咽喉科で定期的に清掃する必要があります。

これができたら、本格的なサーファー《サーファーズイアー》

両側の外耳道の壁の骨が、何カ所も盛り上がって、外耳道が狭くなった状態です。長期間の冷水の刺激で起こると言われ、圧倒的にサーファーに多い病気です。かなり高度でも、無症状のことが多いですが、狭い外耳道に耳垢が貯まりやすかったり、炎症が起きやすい場合もあります。当院にも、他の病気でかかられた方に、サーファーズイアーを見つけることが、しばしばあります。東京で勤務医をしていた頃はほとんど見ませんでしたので、やはり神奈川はサーファーが多いのでしょうか。

耳垢栓塞(みみあか)

軟性耳垢

小学生のお子さんが耳鼻咽喉科健康診断でこう判定されることがときどきあると思います。

 

本当にご家庭では除去することができないぐらい耳垢が詰って、聴こえにも影響が出そうな場合と、単純に耳垢のせいで鼓膜が見えず、診断がつけられないだけの場合があると思いますが、こう判定されたらいずれにせよ、耳鼻咽喉科を受診してください。

 

耳垢を取ってみたら、保護者の方が気がつかないままでいる滲出性中耳炎などが見つかることが時々あります。耳垢は、外耳道の皮膚の古い上皮が剥がれたものと耳垢腺からの分泌物とでできています。前者が主体のものを乾性耳垢、後者が顕著なものを軟性耳垢と呼びます。

耳垢腺の分泌の程度(耳垢腺の数)は、常染色体優勢遺伝によるとされます。ご両親のどちらかでも軟性耳垢だと、お子さんもそうなるということです(いろいろな条件で、例外もあるようです)。

 

白人の方や黒人の方では大多数が軟性耳垢です。日本人では、1割5分から3割が軟性耳垢だと言われています。中国や韓国の方はもっと少ないそうです。軟性耳垢の方が乾性耳垢に比べ、耳垢栓塞を起こしやすいです。

 

軟性耳垢は、茶色いべたべたしたもので特有の匂いがあります。赤ちゃんの耳が臭いと心配して受診されるお母様がときどきいらっしゃいますが、たいていはこれです。耳垢腺は、汗腺のうち匂いのあるアポクリン腺と同じものだとされています。

 

耳垢腺の分泌物は毎日少しずつ分泌されて、たくさん溜まってから取ろうと思っても奥に押し込んでしまうだけになることが多いです。そうなったら、もう耳鼻咽喉科でなければ取れません。

耳垢除去後

そうならないようにするためには、毎日の入浴後に、綿棒で耳の入り口の湿り気を拭き取るようにするのがベストです。この際、耳垢腺は外耳道の入り口付近に集中しているので、綿棒を奥まで入れないことが肝心です。外耳道の深部は入り口と違って皮膚が薄く傷つきやすいし、外耳道の入り口から鼓膜までの距離は意外に短いので子供では簡単に鼓膜に当たってしまいます。

 

乾性耳垢も同様で、外耳道の入り口につきやすく深部の薄い皮膚にはつきません。耳垢の掃除は、基本的には見える範囲でよいのです。乾性耳垢は、軟性耳垢のように毎日掃除する必要はありません。

 

耳垢がなかなか取れないときや、お子さんが掃除をいやがって動いてしまって外耳道や鼓膜を傷つける心配があるときは、耳鼻咽喉科で掃除するようにしてください。耳垢が溜まりやすい方でも、小さなお子さんなら半年に1回、大きくなってからであれば1年に1回来てくだされば十分です。

 

耳垢のタイプについては、縄文人は軟性耳垢で、渡来した弥生人は乾性耳垢だったという説があります。軟性耳垢は北海道と沖縄では比較的多いという報告もあり、これは大陸から渡来した弥生人(新モンゴロイド)が西日本を席巻したが、北海道沖縄まではその力が及ばす、縄文人(古モンゴロイド)の特質が保存されたのだというのです。耳垢が歴史ロマンに通じる面白い説なのですが、根拠は薄いようです。

耳・鼻の異物

鼻内の異物の大多数は、幼少児が故意にあるいは悪戯で挿入してしまったもので、珍しいものではありません。異物の種類としては紙屑、おもちゃの弾丸や首飾りの玉、ビーズ、消しゴム、スポンジ、豆類などが多く見られます。


外耳道の異物も同様に小児がほとんどですが、成人でも、耳掃除のときに脱落した綿棒の綿などが見られることがあります。また、けして稀ではないものとして、外耳道への昆虫(ゴキブリ等)の侵入もあります。右の写真は小児に見られた外耳道異物(プラスチックの球)の例です。

 

この場合は虫の動きとともに激痛を伴います。他に、補聴器装用の際のイヤーモールド型取りの印象材が残ったものや、医原性(ガーゼの留置など)の異物もあり得ます。

 

耳・鼻の異物は、放置すれば感染の原因にもなります。小児の鼻内異物の場合、親が異物の存在に気がつかずに、何日か経過して細菌感染を起こし、片側性の悪臭を伴う鼻漏を生じてから、受診することもよくあります。外耳道異物でも、長期に放置されると、感染を起こして、耳漏や肉芽を生じることがあります。

異物の摘出

鼻内異物は鼻腔の前半部に存在することが多いのですが、受診前に無理に取ろうとしてかえって後方に押し込んでしまったり、鼻粘膜に傷をつけてしまっている場合など、鼻腔内に局所麻酔剤と血管収縮剤を塗布した上で、内視鏡で観察しないと、確認できないこともあります。異物の摘出においては、鼻粘膜や外耳道あるいは鼓膜などを、損傷しないことが肝要です。そのためには、異物の種類によって適切な器具を選択し、最小限の操作で確実に摘出するようにします。小児ではしばしば複数の異物を挿入しているので、異物摘出後、取り残しや他の異物がないか、確認します。鼻粘膜や外耳道の皮膚が損傷し、感染の可能性があるときは、抗生物質を投与することもあります。