患者さん中心の医療と、科学的診断と新しい技術を提供いたします。

中耳(中耳炎、耳管機能、鼓膜再生)

耳の病気と検査

外耳:耳の入り口から鼓膜まで。顔の皮膚の続きです。

中耳:鼓膜の内側にあって鼻の奥(鼻咽腔=上咽頭)と耳管という管でつながっています。喉の粘膜の続きです。

内耳:音を感じる蝸牛(かたつむりに形が似ているのでそう呼ばれます)と平衡感覚を司る三半規管で構成されます。脳の神経の続きです。

 

外耳は耳の穴から見ることができますし、中耳の様子も鼓膜を透かしてある程度分かりますが、その詳細な観察には内視鏡(鼓膜鏡)や顕微鏡が必須です。

中耳の詳しい様子や機能を知るためには、聴力検査ティンパノメトリーといった検査が必要になります。

内耳は外から見えませんから、その診断には聴力検査赤外線眼振検査が必須です。

中耳の検査

鼓膜内視鏡と手術用顕微鏡

当院では、耳の観察や処置には、必ず内視鏡と顕微鏡を用いています

 

耳の中の観察は、50年以上前は額帯鏡という鏡で光を入れて肉眼で見ていましたが、その後は拡大耳鏡と呼ばれる、2倍程度のルーペと電球のついた器具で覗いて見ることが主流でした。しかしそれでは、細かいことは分からず、正しい診断もできません。

 

内視鏡や顕微鏡で、明るく拡大した画像を見ることによって、正確で詳細な観察と処置ができるのです。

 

鼓膜の内視鏡所見は診察の度に必ず撮影し、ファイリングシステムに記録します。

 

ファイリングシステムに記録した鼓膜所見の変化を経時的に見ることによって、診断能は格段に高まります。同時に、その変化を、患者さんやご家族にお見せすることもできます。

聴力検査

正式には標準純音聴力検査と言います。防音室に入っていただき、ヘッドホンをつけて、音が聞こえたらボタンを押していただきます。いろいろな高さ(周波数)の音について検査します。こうして得られた結果を気導聴力と言います。

 

次に耳の後の骨の出っ張りに振動板を当てて検査をします。音を感じる内耳は耳の奥の骨の中にありますが、耳の後に当てた振動板の振動は骨を伝わって内耳まで届き、音として感じられます。この振動は検査をする耳の反対側の内耳にも届いてしまいますから、反対側の耳にはわざとヘッドホンから雑音を聞かせて、骨の振動からの音を聞き取れないようにします(マスキング)。こうして得られた結果を骨導聴力と言います。

 

おおざっぱに言うと、外耳や中耳の病気では、気導聴力の方が骨導聴力より低下します。一方内耳の病気では、気導聴力と骨導聴力は同じ程度に低下します。また、どの高さの音の聴力が低下するかは、病気によって特徴がありますから、聴力検査は耳の病気の診断の大きな手がかりになります。

 

ティンパノメトリー

中耳は、鼻の奥(鼻咽腔)と管(耳管)でつながっています。この管には、中耳の換気をしたり、余分なものを排出したりする役目があります。子供では、もともと耳管の働きが未熟な上に、副鼻腔炎やアレルギー性鼻炎などの鼻の病気によって、さらに働きが悪くなります。

耳管の働きが悪いと、まず中耳の気圧の調節ができなくなり、気圧が低くなってしまいます。さらに、滲出性中耳炎という、中耳に液体の貯まる中耳炎になってしまうこともあります。また、急性中耳炎も繰り返しやすくなります。

ティンパノメトリーとは、この中耳の状態を調べる検査です。外耳道の圧力を変えながら、音の伝わり方を見ます。

 

・正常で、中耳の気圧が外の気圧と同じであれば、グラフのピークが0のところにできます(Aタイプ)。

・中耳の気圧の調節が悪く、低い圧になっていると、グラフのピークがマイナスの方に移動します(Cタイプ)。

・滲出性中耳炎になって、中耳に貯留液が貯まっていると、グラフのピークができません(Bタイプ)。

 

耳小骨筋反射

耳小骨というのは、鼓膜から内耳に音を伝える小さな骨ですが、耳小骨筋はその骨についていて、あまりに大きな音が入ってきたとき、反射的に収縮して音の伝わりを弱め、内耳を守る働きをしています。耳小骨が外れてしまっている時には耳小骨筋反射が検出されなくなります。またその反射は、顔面神経によって起きますので、顔面神経麻痺では反射が起きなくなり、その診断にも役立ちます。

(現在当院では行っていません)

耳管機能検査

鼻の奥と中耳をつないで中耳の気圧の調節している耳管の働きを調べます。

(現在当院では行っていません)

急性中耳炎

 

細菌が鼻の奥にある耳管を通って、中耳に侵入するのが主な原因ですが、ウイルスによる中耳炎もあります。

風邪がきっかけになることが多く、熱、耳が痛いなどの症状が出ます。

しかし小さいお子さんでは、症状を訴えられないこともあります。

不機嫌、夜泣き、原因不明の熱、耳をいじるなどが、中耳炎のサインです。

 

 

大人でも小児に比べると少ないですが、急性中耳炎は起こします。特に大人の場合は、内耳まで炎症が波及して、強い難聴を発症することもあります。

急性中耳炎の悪化と改善

内視鏡で撮影しファイリングシステムで記録した、同一のお子さんの鼓膜です。簡単には治らず、長引いたり、治っても再燃したりすることが多い病気です。そのような難治性中耳炎は、2歳未満のお子さんに多く見られますが、滲出性中耳炎に移行することもあります。

 

治りを悪くする因子

  • 年齢:0、1歳が最も耳が弱く、2歳以降はだんだん丈夫になります。

  • 細菌:抗生物質の効きにくい菌が増えています。

  • 季節:冬(風邪の季節)

  • 病気:副鼻腔炎、アデノイド

  • 環境等:集団保育、兄弟の風邪、親の喫煙

  • その他:口蓋製、ダウン症

家庭での注意点

  • 鼻汁を貯めない、すすらない(片方ずつやさしく鼻をかむ、親が吸ってあげる)

  • 寝ながらの授乳を避ける

  • 風邪を予防する(ご兄弟も含め、うがい、手洗い)

  • 風邪をひいたら、水泳はしない、おしゃぶりを避ける

鼓膜切開をすると中耳炎がくせになりますか?

鼓膜切開は重症の急性中耳炎で、痛みや熱がすぐに改善しそうもない場合にしか行いません。もともと重症で繰り返しやすい中耳炎に行いますので、切開したからくせになるのではありません。

 

急性中耳炎が重症になりやすいのは、お母さんから受け継いだ免疫が切れる生後半年から、自分で免疫をつくれるようになる2歳までの間なので、鼓膜切開を行うのも主にこの年齢です。

 

ただし、切開した穴はすぐ塞がるので、中耳炎は一時的に改善するだけで、すぐ再燃することも多いです。特に小さいお子さんでは、中耳炎は繰り返すことが多いので、鼓膜切開は痛みや熱を早く取るのが目的と割り切った方ば良いかも知れません。

 

切開した穴にチューブを入れて、必要な期間鼓膜に小さな穴がある状態にすると、穴が開いている間は中耳炎になりにくく、なってもすぐ治ることが多く、その間に中耳炎が元から治っていきます。

 

滲出性中耳炎

中耳に水が滲み出てきて溜まり、難聴を起こす病気です。

 

急性中耳炎のような強い痛みや発熱はありませんが、長引いて難聴が続くことも多いです。主として小児の病気ですが、大人でも起きることはあり、特に高齢になると増えます。

 

水と言っても、実際にはネバネバの液体で、いろいろな”毒”も含んでおり、難聴が続くだけでなく、滲出液がなくなったあとまで鼓膜のダメージを残す可能性のある病気です。

 

薬などでどうしても治らない時は、鼓膜にチューブを入れる手術を行います。

慢性中耳炎

鼓膜に穴が開いて、難聴を起こし、しばしば耳漏を繰り返す病気です。

 

細菌感染による耳漏は、抗生物質や耳の処置で抑えますが、根治的治療は手術です。

 

当院では、鼓膜の状態などの条件が合う患者さんに、リティンパという新しい方法を用いた鼓膜再生を行っています。

 

重症の場合は、大きな病院での手術が必要になる場合もあります。

真珠腫性中耳炎

腫瘍ではなく、あくまで炎症なのですが、骨を溶かしながら奥に進行していく、特殊な中耳炎です。

 

難聴はもちろん、進行するとめまいや顔面神経麻痺、髄膜炎などのリスクも出てきます。手術が必要な病気です。

 

先天性の真珠腫もあり、特段の症状がなく、年長児になって進行してから初めて診断されることもあります。

 

当院では、小児は耳症状がなくても、必ず受診の度に鼓膜写真を撮影してファイリングしていますので、小さくまだ未症状真珠腫を発見できたお子さんが、何人もいます。

耳管狭窄症と耳管開放症

中耳は鼻の奥と耳管と呼ばれる管でつながっていて、通常閉じているこの管が、つばを飲み込んだり、あくびをしたときに開き、それによって中耳の気圧が外気と同じに保たれます。これが何らかの理由で開きにくくなると、気圧の調節ができなくなり、中耳の気圧は下がってしまいます。この状態は、耳管狭窄症と呼ばれます。

 

ところが、この耳管は逆に開きっぱなしでも、耳閉感(耳がつまる感じ)、自声強聴(自分の声が強く響いて聴こえる)など、いろいろな症状が出ます。これが、耳管開放症です。耳管の周囲の脂肪組織が減ったり硬くなったりしたときに、この病気は発症します。けして珍しい病気ではありません。当院にもときどきこの患者さんはいらっしゃいますが、気にせず病院を受診されていない方は、かなり多いのではないかと推測されます。そういう意味では、気にさえならなければ、病気とは言えないものです。

 

原因として多いのは、第一に体重減少。体重が減れば、耳管の周囲の脂肪も減ります。無理なダイエットは禁物です。そして女性の方は、ホルモンもバランスで、起きることも多いようで、妊娠やピルも、きっかけになるようです。その他にも、点鼻薬、自律神経異常、楽器吹奏なども、原因になるそうですが、はっきりした原因が分からないことが多いです。

 

鼓膜を見てもたいていは正常です(重症あるいは鼓膜の薄い方では、呼吸に伴って鼓膜が動くのが観察されます)。聴力検査にも異常がなく、耳管狭窄症のようにティンパノメトリーで異常が出るわけでもない。この病気は、まず症状から診断しなければなりません。

 

耳閉感や自声強聴といった症状が、頭を下げると改善するということは、多くの患者さんに共通しています。あるいは横になっているときは良いが、起きて動き出してしばらくすると悪化してくることもよくあります。起きた姿勢では、重力によって頭の方にいく血液が少なくなり、耳管周囲の血流も減って、その分耳管周囲の組織のボリュームが減り、耳管が広くなるのです。(鼻づまりが、横になると強くなり、起き上がると楽になるのと、同じ理由です。)

 

耳管機能検査(現在当院では行っていません)でも、軽症の場合は異常が出ないことも多いです。局所麻酔をつけた綿棒を鼻から入れ、奥の耳管の入り口をそれで閉鎖し、症状が改善するかどうかを確かめるのも一つの方法です。

 

治療は特効薬があるわけではありません。ただ、軽症の方では、診断をつけて、この病気についてご説明するだけで、ある程度納得され、安心されて、症状が気にならなくなる方が多いようです。漢方薬(加味帰脾湯)が有効であるとの報告があり、私も薬物としては、これを第一選択にしています。数ヶ月の投与で改善することが多いです。ある程度重症になると、この症状はかなり苦痛になるので、そのために神経質になり、自律神経異常も起こして、悪循環になってしまうことも多いようです。このようなときには、心療内科受診が勧められることもあります。

 

内服薬で改善しない場合、内視鏡で見ながら鼻の奥の耳管の入り口に薬をつけたり、ご自分で生理食塩水を点鼻していただいたり、耳管の入り口を狭くする治療を行なわれる場合もあります。鼓膜にテープを貼って、呼吸による鼓膜の動きを制限する治療が、有効な場合もあるようです。

 

重症の方には耳管にピンを挿入するなどの手術が行われていますが、その手術を行なっている病院は、全国でも限られています。

耳硬化症

文字通り、耳の中が硬くなって、中耳の音を伝える小さな骨の動きが悪くなり、進行する難聴を起こす病気です。

 

その難聴の程度によっては、手術で中耳の音を伝える骨を、作り直す手術が行われます。

耳小骨離断

中耳には、音を鼓膜から内耳まで伝える、3つの小さな骨がありますが、それを耳小骨と言います。

 

耳小骨の繋がりが離断して、音が伝わらなくなった状態を耳小骨離断といいます。耳かきを深く刺してしまい、耳小骨の繋がりを壊してしまうなどの事故で、生じることがあります。

 

手術によって、耳小骨を再建し、難聴を治療することが可能です。

 

耳小骨の繋がりがない他の病気としては、先天的な中耳奇形もあります。

ワイドバンドティンパンノメトリー

ワイドバンドティンパンノメトリーは、従来のティンパノメトリーが226ヘルツという1種類の高さの音の検査しかできないのに対し、225ヘルツから8000ヘルツまでの広範囲の周波数を連続的に検査ができるティンパンノメトリーです。従来と同じ226ヘルツのティンパノグラムももちろん得られるのですが、中耳の状態について、格段に詳しいことまで知ることができるようになりました。

ワイドバンドティンパノメトリー

検査にかかる時間も、検査料も従来のティンパノメトリーと同じで、患者さんの負担は増えません。